　キッズ英会話勧誘の売り文句のようですが、5歳ではなく3歳という主張もあるかもしれません。英会話学校を通り過ぎる際に2歳の息子に対して英語学習始めませんか、と笑顔でチラシを渡されると作り笑顔で受け取りはしますが、内心は「いらんいらん」と思いながら通り過ぎます。では何歳で始めるのがいいのよって思いますよね。

　「英語学習は５歳までに始めないとヤバい！」というのは、ある目的設定においては正しいといえます。それは、「自分の子供を英語ネイティブにさせたい」というものであれば。ネイティブというのは、発想思考認知を「英語という言語を基準にする」という人のことです。言語学史において言語と認知の関係性は、鶏が先か卵が先かの議論が大々的にありましたが今は言語が先にありその後に認知と思考が形成されていることが当たり前となっています。

　でも皆さん、自分の息子を英語ネイティブにさせたいわけではないですよね。ほとんどの方が英語を話して異文化の人とコミュニケーションを取れるようになることで、視野や可能性、選択肢を広げてほしいという理由からではないでしょうか。そうだとすれば、英語学習はどんなに早くても小学校高学年、通常は中学生ぐらいからで十分です。自己形成（発送思考認知）を日本語ネイティブの人間として形成されたのちがベストだというのが僕の考えです。

　英語学習において今でも忘れられない出来事が一つあります。30年ほど前、人生で初めて短期留学でロンドンの語学学校に入学した最初の授業のこと。典型的な日本人の僕はクラス分けの筆記試験で高得点をゲットしてしまいアドバンストのクラスに入ることになりました。緊張の面持ちで席に座っている僕の隣で、20代前半ぐらいの長身のフランスの生徒がいきなり立ち上がりました。彼はどうやら今日のスピーチの担当だったようで、5分間にわたり自分の週末の出来事や時事ネタについてどぎついフランス語訛りの英語で話し終えたかと思うと、「先生、質問があります。過去形と過去分詞の作り方をもう一度説明してください」と言ってスピーチを終えたのです。

　嘘やん！と驚いたポイントは二つ。一つはアドバンストクラスの生徒は英語を話せること自体は当たり前でないといけないのだ、という圧倒的会話力レベルの高さ。そしてもう一つはそんな会話力レベルの人が中学生レベルの文法を理解できていないんや、という驚くべきこのギャップに対して。

　スピーチについてはこの歳になっても未だに同じ驚きを英語圏の人間に対して感じます。とにかくよく話すなぁと。彼らはひたすら話す、自己主張をする、それが英語ネイティブのメインストリームなんだと実感します。そして、自分の話術で相手を圧倒していく、そういう人間が重宝されるのが英語圏の土壌といえます。一方で日本語ネイティブは静とか間とか、聞く耳といった姿勢が重宝されることが多い傾向がありますよね。

　話が少しそれましたが、我が子の英語学習についてはそもそもの目的をご家族で再考してみるのがいいと思います。我が子を英語ネイティブにさせたいのか、日本語ネイティブで英語を話せるようにさせたいのか、その点で大きく学習の仕方は変わってくると思います。英語学習、とりわけ英会話において重要なことは何歳で始めたかではなく、継続的にどれだけ英語に触れられているかになります。これはスポーツと近しい感覚とえいます。

　余談になりますが、ドイツ人は英語圏への憧れの理由として文法の自由さというのをあげます。ドイツ語は文法ルールがガチガチですので、そこから逸脱すると未熟者といった烙印を押されがちです。一方で英語は文法ルールが比較的曖昧（その自由度は日本語と近しい）でして、ルールを破壊、逸脱していくことで新しい文化（音楽、小説、詩）を創造するのを良しとする言語的土壌があります。その点において日本語と英語は似ている言語文化圏なのかもしれません。

2025.08